東日本大震災後のPTG(心的外傷後成長)に、疑似PTGを含む3つのパターン
東日本大震災後のPTG(心的外傷後成長)の時間的変化には、疑似PTGを含む3つのパターンがあることを、久徳康史機構准教授らが発見しました。この成果は、外傷性ストレスの国際誌、Journal of Traumatic Stressに掲載されました。
「ピンチはチャンス」という言葉や「逆境に追い込まれた経験が自分の成長に繋がった」という話を耳にしたことはあるでしょうか。もちろん、辛い経験や恐ろしい体験はなるべく回避したいものです。しかし、実際そういった出来事に遭遇してしまったときに「ピンチをチャンス」に変えていける人はどれくらいいるのでしょうか。
そんな研究をした檀研の論文ご紹介したいと思います。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と、それに誘発されて発生した津波、そして福島第一原発事故という一連の災害は、直接的に被災した人だけではなく、間接的に被害にあった人にも、いわゆる「トラウマ」を植えつけるような出来事でした。
こういった強いストレスを与える出来事は外傷性事象(PTE)と呼ばれ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症させるなど、心理的に悪影響を及ぼすこともありますが、逆にPTG(心的外傷後成長)という有益な心理的反応を引き出すこともあります。
このPTGというのは1.個人の強さ 2.精神性と人生への感謝 3.人生の新しい可能性の認識 4.他者との関係の強化、という四つの要素からなり立っています。でも、PTGの時間的な変化については詳しくは分かっていません。PTGのように見える心理的変化の中には、外傷性事象(PTE)後の初期だけに現れる一過性のパターンも存在するのではないかという研究者もいます。その二面性は「ヤヌスの顔」という二つの顔を持つ神に例えられて、研究者の頭を悩ませていました。
そこで久徳康史機構准教授を中心とした研究チーム#は、災害後6ヶ月、12ヶ月、42ヶ月に岩手、宮城、福島の被災者560人にインターネット調査を行いました。GBTM(Group-Based Trajectory Modeling;混合軌跡モデリング)法という最新統計手法を用いた結果、PTG(30%)、擬似PTG(20%)、PTG無し(50%)、という3つのパターンの軌跡があることが分かったのです。
PTGは外傷性事象(PTE)後に人間的成長を遂げる人、PTG無しはそのまま成長が見られない人を表します。
そして「擬似PTG」とされる人は、外傷性事象後の初期段階ではPTGと同じく人間的成長が見られるものの、その後マイナス成長の軌跡を描くことが分かったのです。
つまり、災害後に一時的に奮起し、人間的成長を遂げたかに見えている人の中には、単に「空元気」であり、その奮起が逆にストレスになり、時が経つにつれて心理状態が悪化してしまう危険性を持った人もいるということを示した研究結果となったのです。
「ピンチはチャンス」という言葉は、一見力強い言葉であり、魅力的に映るかもしれませんが、実際には諸刃の剣であり、万人にとって必ずしも良い結果をもたらすものではないのかもしれません。
筆頭著者の久徳准教授
本研究は、中央大学研究開発機構の久徳准教授、中央大学理工学部人間総合理工学科の檀一平太教授、小宮山蓮(M1)、中央大学文学部心理学科の山科満教授、テキサス大学アーリントン校のAngela J Liegey-Dougall准教授による共同チームが行ないました。本チームPTEを体験した際の影響を緩和させることを目指し、予防的心理研究を進めています。
本研究はJournal of Traumatic Stressに掲載されました。
(文:ミヤ)
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2021/02/24