赤ちゃん学会:ASD児とADHD児の鑑別のためのバイオマーカー探索

研究 研究室日乗

5月21日(土)22日(日)、京都で開催された『赤ちゃん学会』にて、檀ラボの徳田竜也くんがADHDとASDの判別にかんする発表をしました。以下、研究内容です。「まだ認知脳科学の授業を受けていない一年生にも分かりやすいように」と、解説もつけてくれたので、ご興味ある方はぜひご一読ください。(スタッフ 弘川)

徳田竜也

【研究解説】

ADHD(注意欠如多動症)は「待てずに反射的に行動してしまう(衝動性)」、「落ち着きがない(多動性)」、「勉強などで不注意な間違いをする(不注意症状)」といった症状を伴います。ADHDは全人口の5%以上に幼児期から発症する代表的な神経発達障害です。一方、ASD(自閉症スペクトラム症候群)は「社会的コミュニケーションが苦手さ」「興味や行動の限定」といった症状を伴います。

 

ADHDとASDの診断は簡単ではありません。2つの障害が合併していたり、似たような症状が見られることがあるからです。しかし、障害の症状や原因によって取るべき対応法が異なるため、診断は慎重に行わないといけません。従来の診断は行動観察が中心であり、しばしば「ADHDの症状」と「ASD症状」の判別が困難でした。そのため客観的な診断法が求められています。

 

今回の実験ではASD児17名、ADHD児17名、定型発達児17名の計51名に、行動抑制ゲーム(Go/Nogo課題)をしていただきました。このゲームは「自分の行動を抑制する能力」を測ります。ゲームの長さは約6分間です。近赤外線で脳血流を測定する光トポグラフィ(日立メディコ・ETG4000)という装置を用いて、このゲーム中の脳活動を、計測しました。ゲーム中に定型発達児の右前頭前野で脳活動の上昇がみられましたが、ADHD児ASD児ではゲーム中の上昇はみられませんでした。右前頭前野は、行動抑制機能に最も関わりがある部位として知られています。

 

ADHD児とASD児を右前頭前野の脳活動だけで判別することは困難という結果になりましたが、今後は行動抑制ゲーム以外の課題中の脳活動や治療薬投薬後の脳活動の計測をおこないさらに詳しく解析を進めていきたいと思います。そしてADHDやASDと診断された人が1人でも多く適切な医療支援が受けられるような一助になりたいと思います。

 

檀教授をはじめさまざまな先生方にご協力いただき、今回は学会発表をすることができました。先生方の協力に感謝いたします。さらに今後も研究を続けていきたいと思います。

(徳田竜也)

 

【研究資料】

抑制機能課題を用いた光トポグラフィー計測によるASD児とADHD児の鑑別のためのバイオマーカー探索

徳田竜也1・長嶋雅子2・宇賀美奈子1,4・池田尚広2・山岸佑也2・下泉秀夫5・山形崇倫2・
檀一平太1・門田行史1,2,3
(1中央大学理工学部人間総合理工学科・2自治医科大学小児科・3国際医療福祉大学小児科・4自治医科大学先端医療技術開発センター・5国際医療福祉大学リハビリセンター)

本文
【背景】
ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉症スぺクトラム障害)は一般的に併存していることが多く臨床的に明確に分けることが困難といわれている。我々は、これまでの研究成果として抑制機能課題施行中の光トポグラフィー(fNIRS)計測で、ADHD児において定型発達児と比較して右前頭前野の脳機能低下があることを集団解析レベルで報告した。次に右前頭前野における抑制機能課題施行中のfNIRS計測でADHDを90%の感度でスクリーニングできるバイオマーカーの開発をした(Monden, et al. 2015、特許出願中)。
そこで今回はASD児とADHD児を脳機能的に鑑別するためのバイオマーカーを光トポグラフィーにて探索する目的でASD児も対象に抑制機能課題施行中のfNIRS計測をおこなった。

【対象・方法】
IQ>70、右利きである、ASD児17名(年齢8-13歳、平均10.5歳)、ADHD児17名(年齢8-15歳、平均10.8歳)、定型発達児17名(年齢8-14歳、平均10.8歳)を対象とした。脳活性を、抑制機能課題であるGo/No-go課題中のfNIRS計測の酸素化ヘモグロビン(oxy‐Hb)濃度で評価した。右前頭前野を関心領域としてfNIRS計測をおこなった。
ASD群、ADHD群、定型発達群の脳活性をt検定にて評価した。その後各群の脳活性の差を分散分析にて検討した。さらにポストホックのt検定はボンフロー二補正をおこなった。本研究は自治医科大学附属病院臨床研究倫理審査委員会(臨A 14-143)と国際医療福祉大学病院倫理審査委員会(FK-83)において承認されている。

【結果】
ASD群、ADHD群において抑制機能課題において右前頭前野に有意な脳活性はなかった。定型発達児では有意な脳活性があった。そして、3群で分散分析をおこなった結果、3群間で統計学的に有意な差があることがわかった(F(2,48)=11.16、η2=0.316)。ポストホックのt検定の結果、定型発達群とASD群、ADHD群の間にはそれぞれ有意な差が認められたが、ASD群とADHD群の間では有意な差は認められなかった。

【考察、まとめ】
ASD群、ADHD群の両群にて右前頭前野の脳機能の低下が見られたことから行動抑制機能課題施行中のfNIRS計測にてADHD児とASD児を脳機能的に鑑別しうるバイオマーカーを作成することは困難であることがわかった。
今後は抑制機能課題だけでなく、注意課題を施行する際にfNIRS計測をおこない、ADHD児とASD児を鑑別しうるバイオマーカーの探索を続ける。

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